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新人webデザイナーで転職しがちなワタシの「素直に生きる人生をおくりたい」そんなワタシのブログです。まっすぐに思ったことや得たことをお届けできるようにがんばります。

黒山

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まだ見た事の無い場所が多い

まだ触れた事が無い気持ちが多い

感動も失望も後悔も挫折も

失敗も成功も何もかも

まだ手の中にさえ入って居ない

 

ことばに出来ないまま

離れていく事が多いのかも。

 

 

「夢を追うのは正しいんだろうか。」

四畳半の部屋で黒山は言う。

「現実に目を向けて、生きていく事は妥協した事になるんだろうか。」

四畳半の隅で黒山は言う。

僕は何も言えず 相談にも乗れない自分に唇を噛む

ふと、

じわりとにじむ血の味を世間のどれくらいの人が

知っているのだろう。

よぎる意識を遮断する。

そんなのばかりだ、遮断して繕う。

僕の生きた証など墓石に傷をつけるような

そんな数ミリだ。

赤色を赤だという黒山と

もしかしたらオレンジがかってるかもしれないという僕は

決定的に違う。

後者が世界に求められてるなら

黒山には世界は生きづらいだろう。

でも、

それにいちいち気づく人も

手を差し伸べる人も

微笑みかける人もいない

 

それが社会だ四畳半以外の何かだ

 

美しい世界を知らないのが損だ

愛を知らないのが損だ

おいしいものを知らないのが損だ

お金はもらうべきだ

損はするな

「何も持たず生きる事はできないのか」と

黒山は小さく言った。

彼は部屋着で

僕はスーツだ

それも決定的に違う。

ぼくたちのスタートは確実に同じ場所なのに

たどり着く最終地点も同じ場所なのに

ただ生きているというだけで

違うのは

僕がまちがったのか

彼が正解なのか

僕が正解なのか

彼が間違いなのか。

 

 

 

「夢を追うのは正しいんだろうか。」

四畳半の部屋で俺は言う。

「現実に目を向けて、生きていく事は妥協した事になるんだろうか。」

四畳半の隅で俺は言う。

 

小林は相変わらず無口で

ただ俺の無駄話を聞く。

 

大学を卒業して小林は

広告会社の営業の職業に就いた

「就いた」という言葉もわからないが

広告会社の営業の仕事をする人間になった。

このほうが分かりやすいか。

いや、

 

「無口だが、夢を追うだなんだか言ってる

くだらない幼なじみに真夜中呼び出されて

仕事でへとへとなのにそれでも来てくれるほど

友人思いな広告会社の営業の仕事をする人間の小林。」

 

が相変わらず無言で唇を噛んでいる。

 

赤色を赤だという俺と

もしかしたらオレンジがかってるかもしれないという小林は

決定的に違う。

 

俺は相変わらずの部屋着で

小林のスーツを見て

「何も持たず生きる事はできないのか」と

つい漏らした。

小林は一重で切れ長の目を少しだけ揺らして

また手元に視線を戻した。

 

 

同じ場所から生まれて

同じとこに戻る

この僅かな何十年間で

僕等は幾重も偶然と必然を繰り返して

骨に戻る。

神様が見てたら

どれだけ滑稽だろう。

どんな傷も後悔もすれ違いも

身を滅ぼすような恋さえも

たかが片手からさらさらと落ちていく

砂粒の一つに過ぎない。

 

小林のスーツ姿も

俺の部屋着も

この四畳半の部屋でさえ

何にも価値のない

 

そうかんがえると漏れるのだ

「何も持たず生きる事はできないのか」と

 

 

 

黒山の問いかけには

結局答えられなかった

あの日から

僕は相変わらずの生活で

仕事をして

休日は彼女と食事に行ったり

夜をともにしたりした。

大人になると

もしかしたら

些細な事に

疑問を抱かなくて

生きれるようになるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「小林。

俺たちは

何を欲しがって

生まれたんだろう。」

 

 

 

 

 

 

小林からの手紙が

ポストに

静かに入っていた。

彼が眠るように

真っ白な封筒に入って

神経質な字で

確かに書かれていた

 

 

 

 

黒山は何を

諦めたのか

何に失望したのか

僕には分からない

 

僕は黒山ではないから

僕は君ではないから

でも

黒山が死んだときいて

この世界には向き不向きが

あるのかもしれないなと

少しだけ   ほんの  少しだけ

微笑んでしまった。